日々をキリバリ

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なくしてわかる大切なもの その2

5月某日

髪を切ったあと、始めての出社である。

しかし、髪を切ったくらいでいちいち何か言われる事はないだろう。
そう思っていたのだが、

「何ですか、その髪型は!?」

と、いきなり森君(スニッカーズの記事に登場)に突っ込まれてしまった。
森君は苦笑いしながら「初期のビートルズみたいな髪型だ」と言う。

「ビートルズは意識していないんだ、自分で切ったからどういう髪型なのか名前も知らない」
私は自分の席に荷物を置きながら言った。

「祭さん・・・思い切った髪型にしたなぁ」

「そう?」

「絶対に誰かに何か言われますよ」

森君そう予言した。

私は自分の荷物を置き終えて、メールのチェックを済ませると喫煙所に向かう。
ゴールデンウィーク明けでまだ調子が戻らない。

出社即仕事、というモードではないのだ。
幸い急いでやらなければいけない仕事もないので、タバコを吹かしながら少しウダウダする事にした。

私が喫煙所へ行くと後輩の男の子が携帯をいじりながら椅子に腰掛けている。
この後輩の男の子は結構真面目で、仕事熱心なのだが顔がニヤケ面のためにいつも遊んでいると思われている可愛そうな男である。

私はゴールデンウィークは少し休めたのだが、きっとこの男の子はガッツリ仕事を入れただろう。

そうであるならば、ここは1つねぎらいの言葉でもかけてやらねばならない。
よき先輩としてしっかりとそういうがんばりは認めてあげて、やる気を維持させよう。

そこで私は「どう仕事は?」と声をかけた。

後輩は携帯から顔を上げずに「まぁ、道険しですよ」と応えた。

「そうか、まぁ、締め切りまで余裕があるから大丈夫だ」
私がタバコに火をつけながらそう言うと、

「締め切りには終わりますけど、どうも落ち着かないんですよねぇ」

「うん、そうだけど締め切りのプレッシャーに絶える事も大切な事らしいよ」

「ですね、祭さんは・・・」

そう言って、後輩はようやく携帯から目を話し私に視線を向けて、


「はぁ? えーーー!!」


と叫んだ。

「どうしたんだいったい! 落ち着くんだ」
私は突然の大声にびっくりした。

さっきまで、落ち着いて話していたのに急なハイテンションである。
忙しさで気でも狂ったか、そう思ったのだが後輩は私の髪型に笑ったようなのだ。

「ぎゃははは、何すかその髪型ww」

後輩は笑いながら指で私の髪を指している。

「もみ上げがないじゃないですかww」

「いや、最近はさ湿気が多くってもみ上げが丸まるんだよ、俺は天然パーマだから。邪魔だったんだよ」

「そういう問題ではなく・・・なんと言うか、気持ちが悪いですね」

「えっ」

まさか、である。
気持ちが悪い、とそうはっきり言われるとは思ってもいなかった。

森君はかろうじて「ビートルズ」に例えてくれたのだが、例えなしで率直に私の髪型をあらわすならこの後輩の言うとおり「気持ち悪い」ということになるのだろう。

「キモチガワルイ、って・・・」

「あぁ、いや、すいません。でも、他に言いようがなくって・・・」

「そんなにダメかな、自分では結構うまく切れたと思ったんだけど」

「うーん、何でそんなにマッシュルームっぽくしちゃったんですかね〜」

「マッシュルームっぽい奴なんてうちの会社にいない事もないだろう?」

「そうなんですけど・・・なんだろうなぁ、祭さん痩せているし、痩せててその髪型だと気持ちが悪いですよ」

「痩せてる事がダメなの? 単に見慣れてないからだろう?」

「そんな事ないです。気持ちが悪いです」

「気持ちが悪くなっちゃう髪型かよ・・・」

「絶対に誰かにいじられますよ」

後輩は森君と同じ意見である。
それにしても、出社して1時間もたっていないのにこんなに弄られるとは先行きが不安だ。

「高校生じゃないんだから、髪型がどうのってみんな言わないよ。大人なんだぜ」

私が言うと、

「大人でも指摘したくなる髪型なんですよ」

後輩はそう言ってなんだか嬉しそうだった。


その後、森君と後輩の予言どおり、このあとも「もみ上げどうしたんですか!?」と何人にも指摘される事となり、職場は「もみ上げ」という単語が飛び交う阿鼻叫喚の地獄とかしたことはまた別のお話・・・。

「もみ上げは実家に帰っております!!」

気の利いた返しだと思ったのだが、このギャグは空を切ったという事だけは報告しておこう。

もみ上げとはなくしてわかる大切なもの、社会的地位を守るものだという事がわかった。







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なくしてわかる大切なもの その1

5月某日

髪を切った。

だんだんと気温が高くなるにつれて、私の長い髪はうざったい。
自分でもそうだし、きっと他人から見てもそうであろう。

そういうわけで、髪を切る事にしたのだ。

あと理由としては山田がデートを体調不良でキャンセルしてきたので、暇になったというのも大きい。準備万端でデートに備えていたのだが、それがすべてオジャンになってしまったのだ。

丸一日、山田と過ごそうと思っていたわけで、デートキャンセルを食らうと丸一日暇になってしまう。一日暇なのは悲しすぎるために「髪を切る」という予定を無理やりに作った、とそういうわけでもあった。


さて、私がたびたび言っている事だが美容院に行っても理想の髪形にはけしてしてくれないばかりか、会話がうざったい。私は元来、話好きなので会話する事自体はいいのだが、やっぱりそれは普段から良く知っている人に限られるわけで、誰でも良いから話をしたいと言うわけではなかった。

しかも、客と店員という絶妙な距離感がなんとも言えぬ妙な空気感を作り上げていて、お互いに遠慮してけん制球のような差しさわりのない会話をポツリポツリ投げ合って、お愛想笑い。


それが嫌なのだ。

とはいえ、これは何も店員だけのせいではない。会話と言うのは流動的なものなので、環境の変化に沿って生まれてくるというか、その場面場面で必要発生的に生じるものである。

だから、髪を切ってもらうためにじっと椅子に座っているような状態では、会話が弾まないのも無理はなかった。

まぁ、美容院で会話を楽しんでいる人や、むしろその会話が楽しいと言う人もいるだろうから、言ってしまえば人見知りの私が悪いのだが・・・。

いや、まぁ、そんな事で自分を責めたくはないな。


自分自身を好きでいるためにも私は自分で髪をきる事にした。

プロがやっていると簡単そうな事でも自分でやるとなると難しいものだ。しかし、おしゃれな髪型にしたいわけでもないし、それでいいか、そういう調子でやっていった。

・・・が、まさか翌日会社に行ってあそこまで言われる事になろうとは当時の私には知りようもない事であった。



It is no use crying over spilt milk.




つづく。





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